切なる願い



「レディ・モンタギューはロンドンの友人に宛てた手紙に、

その過程を描写した。地元住民は子どものために

パーティーを開く。そこで老女が針で子どもに小さな切り傷をつけ、

傷口にもっとも軽い症状の天然痘にかかった人のかさぶた

から作った粉を一つまみ置く(軽い症状というのはおそらく、

バリオラ・マイナーという天然痘ウイルスの変異株に

よるものだろう。これで死に至ることはめったにない)。

八日後、子どもには二十個から三十個の膿疱ができ、

軽い熱で寝込むが、二、三日で回復して、もう天然痘に

かかることはなくなる。レディ・モンタギューはこの慣習に感心し、

大使館の医師チャールズ・メートランドを説得して、自分の息子が

接種を受ける一部始終を見せた。年配のギリシャ人女性が

錆びた針を震える手に取り、乾いたかさぶたから作ったものを

少年の腕の小さな傷口につけるのを見ていたメートランドは

愕然とした。レディ・モンタギューが自分のしたことを

夫に話したのは、息子が回復してからだった。

無論、当時は誰一人として、免疫細胞の存在を知らないし、

まして樹状細胞が病原体から抗原を拾って適応免疫細胞を

活性化させることなど知るよしもない。しかし、接種によって

どのように免疫が得られるのか完全にわからないからといって、

それでこの習慣は止むことはなかった。何しろ効くのだから。

イギリス人にとっては驚くべきものであったが、

接種という行為は直観に反する、

決して新しいものではない。何世代にもわたり、

インド全土の医師は、天然痘の膿疱の膿に浸した針を子どもの

上腕に刺すというやり方で、天然痘の接種をしていた。

そして、この手法がコンスタンチノープルに到達したのは

レディ・モンタギューがやって来る少し前だったが、

中国では1000年前から天然痘の接種をすでに行っていた。

中国でのやり方は、伝えられるところでは、天然痘のかさぶた

を乾かした粉を子どもの鼻に吹き込むこともあり、

男の子と女の子でどちらの鼻孔に入れるかが

決まっているという。方法はどうであれ、たいていの場合

子どもは軽い熱を出してから回復し、免疫を得る。」

『土と内臓』

D・モントゴメリー + A・ビクレー著 

片岡夏美訳  築地書館





近代西洋医学が全盛を迎える前に

アラブ医学 エジプト医学 ギリシャ医学

インド医学 中国医学 チベット医学

モンゴル医学 韓医学 

和方医学(日本漢方 日本鍼灸)など

多くの伝統医学 伝承医学が世界の各地域にあった



ジェンナーの牛痘接種に先駆ける200年前には

中国で種痘法は行われていた

花岡青洲は朝鮮朝顔から抽出した麻酔薬を開発し

西洋世界に先駆けて世界で初の乳癌手術を成功させた



スイス国境で発見された5300年前のミイラには

入れ墨の痕があった

その入れ墨痕は私たち現代の鍼灸師が坐骨神経痛の

治療に使うツボの位置に正確に刻印されていた

CTスキャンの解析からこのミイラは生前に腰椎の炎症を

持病とし坐骨神経痛を患っていたと推定された

ツボの入れ墨の刻印は鍼を打った後の血止めの煤と

研究者は推定した

ツボという概念があったかどうかは不明だが

中国医学が発祥するよりも前の欧州で既に

ツボ治療のようなものが活用されていたのだ


医学の歴史は人類が生き延びようとした歴史と

言えるのかもしれない


5000年 いや もっと前から使われてきたツボ

それが今でも十分に使える

なぜ鍼を打つと体が軽くなるのか?

鍼治療をすると皮膚体壁の細胞からヒートショックプロテインが

産生されてくる このヒートショックプロテインという分子は

真皮の免疫細胞の樹状細胞の細胞膜に捉えられると

適応免疫を活性化させるように抗原提示をする

ヒートショックプロテインは鍼治療だけでなく灸治療や

指圧でも産生される

鍼灸指圧→ヒートショックプロテイン→樹状細胞→免疫賦活

もちろん5300年前の坐骨神経痛持ちには

このような鍼が効くメカニズムなど知りようもなかった

だが 効くから鍼をうったのだ

今の時代に彼が転生したなら私が鍼の治効メカニズムを

上記のように説明してあげよう


消毒衛生の発明と抗生物質の発見により急速に

近代西洋医学は世界を席巻した 

そんな近代西洋医学の成果を称賛するのはやぶさかではない



だが同様に東洋医学を正統に評価する

そんなひとがひとりでも増えることを切に願う
  


2021年03月21日 Posted by ハリィー今村 at 21:41Comments(1)