誇り
「元気は何れも自然の運行である
医師は病に臨んで
自然の運行の欲するところが
如何なるかを視るのみである
人身は本来 元気がある
医師の技は ただ
その奴隷にすぎない
医師は自然の下僕である」
漢蘭折衷派 新宮凉庭(1787~1854)
幕末に長崎に留学しオランダ医師に師事し
その傍らに漢方薬を用いて
オランダ商館の異人たちの不調を
見事に治した名医であった新宮凉庭は
自分の薬箱に上の文字を刻んだ
こういう素晴らしい漢方医が200年前の
この日本に いたんだよ
自分が行う医療の戒めとして
医師は自然の下僕
自分の治療が治すのではない
治療はあくまで自然治癒の助けにすぎない
という自戒の言葉を
わざわざ自分が携行する薬箱の前面と後面に刻み込む
しかもオランダ語と漢文で
この崇高な精神
このセンス
この知性
この美意識
シーボルトを称え
杉田玄白の偉業を強調し
野口英世をお札に印刷する
しかし日本の医学情報において
新宮凉庭の名を聞くことは無い
本当に知るべきは
このような人物ではなかろうか
日本に新宮凉庭がいた
日本人の誇りだ