ひとはそら

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この地球の大気中には

酸素が約20%、窒素が約80%と、

二酸化炭素が0.035%、

含まれている。

酸素はご存知のように活性酸素という

アンチエイジング嗜好の皆様が

蛇蝎の如くに嫌う老化促進物質に容易に変わる

たいへんに恐ろしい反応性の高い元素だ。

だから、今から27億年前に地球の大気に

酸素が増えだした時、いわゆる嫌気性細菌という

酸素を嫌う細菌たちは、

酸素と触れあわない土の中に避難した。

それがいまでも土の中にいる土壌細菌だ。

その土壌細菌のうちの豆科の根っこに

共生する根粒菌は、空気中の窒素を取りこんで、

アミノ酸に変換して、その植物は豆のなかに

そのアミノ酸をため込む。

その豆の中、例えば枝豆のなかのアルギニンというアミノ酸を

わたしたちは、うまっ、まいう〜、と言いながら、

食べることで、空気から直接に窒素を取りこめない替わりに、

お腹のなかから窒素を吸収する。

肺では酸素を血液中のヘモグロビンの鉄元素とくっつける事で、

反応性の高い酸素が他の分子と触れあわないようにし、

そのヘモグロビンにくっついた酸素は血流に乗って、

最終的に細胞内のミトコンドリアに運ばれて、

そこでミトコンドリアはこの酸素を使って、

口から取りこんだアミノ酸をはじめとする栄養素を分解し、

ATPという生きるに必須のエネルギー&ホルモン分子を

大量に合成し、

最終的に水と二酸化炭素に変換する。

大気中の二つの元素である酸素と窒素はこうして、

ひとの鼻や口から取りこまれて、

ひとを生かしている。

大胆に言い換えるなら、

ひとは空気の生まれ変わり、

いや空気そのものと言えるかもしれない。

いつからか、空気が読めない者のことをKYなどと

いう習慣が身についたが、

そんなKYな御仁も、空気は読めなくとも、

空気を取りこんで生きているのだ。

思えば不思議なことだ。

こんな吹けば飛ぶような軽い空気が、

こんな重くどっしりとした分子の塊である肉体に変じるのだ。

ひとがひとの肉体をもち、この世界で生きる事ができるのは、

空気のお蔭であり、その空気から取りだした酸素と窒素を

合成してATPを生み出すミトコンドリアのお蔭だ。

ひとと空気は一心同体。

人即是空、空即是人。

人空一如。

肺にスーッと息を吸い込むとき、

ひとと空はひとつになる。

この大空は命のふるさと。

ひとはそら。




2017年08月13日 Posted byハリィー今村 at 01:52 │Comments(2)

この記事へのコメント
おもしろい。
読み終わって思わずにやりとしてしまいました。
なんてったって「人即是空、空即是人」がいい。
Posted by びひゃーな at 2017年08月13日 09:20
びひゃーなさんへ

たいへんに、お久しぶりです。

コメントを頂戴いたしまして、感無量です!

酸素と窒素がどんな旅路を経て、人体に宿り、

また去っていくのか。

ひとは言ってみれば空(そら)を直接に呼吸して酸素を取りこみ、

窒素は食べ物を通して大地から吸収する。

その大地の窒素も、もとをたどれば空(そら)の窒素。

つまり人は鼻から空を呼吸し、

口から大地を呼吸することで、その生を養う。

つまり天地を呼吸して養生するのが人間だ、となります。

古来より、ひとは天地の子、と宗教的に教えられてきました。

これが観念だけだと、現代人はソッポを向く。

しかし、科学の目を持ってしても、ひとは天地の申し子である、

ことが酸素と窒素の由来を探ることで見えてきた。

このじつに単純な元素を二つ組み合わせると、

一酸化窒素という酸素1つと窒素1つがくっついた分子が生まれる。

この一酸化窒素が血管を拡張するホルモンとして機能することで、

ひとは血液中の酸素をミトコンドリアへ送り、血液中の窒素をミトコンドリアへ送ることが可能となる。

酸素と窒素はまるで夫婦のように寄り添うことで、ひとを生かしてくれる。

酸素と窒素と一酸化窒素を俯瞰していくと、まるで宗教のような、哲学のような、科学のような、

それらが渾然と一体になった世界が見えてくる。

宮沢賢治は宗教と科学と哲学を一緒にしたいと切望したそうです。

そして、かの剣豪・宮本武蔵は、万理一空、という言葉を遺した。

ひとに関わるすべての理も、もとをたどれば空気の酸素と窒素なしでは存在し得ない。

だから万の理もひとつの空(そら)から生じ、また空(そら)へと還る。

すべてはそらがあってのこと。

いまごろ、草場の蔭で武蔵も、にやり、としているかもしれませんね(笑)
Posted by ハリィー今村ハリィー今村 at 2017年08月13日 17:32
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    コメント(2)